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日本は古来より焼きもの生産が盛んで、平安時代の末から各地で陶磁器が使われてきました。
安土桃山時代には茶の湯の流行を背景に色鮮やかな陶器が作られるようになり、それらは茶道具だけではなく食器へと広がっていきました。
暮らしを豊かにし、食卓に彩りを与えてくれる陶磁器。
この記事では、そんな陶器と磁器の違いについて、詳しく解説します。
陶器と磁器、それぞれの特徴

陶磁器とは、原料である土や石の粉をこねて焼いたものです。
器の素材によって見た目も料理の風味もまろやかに感じられ、茶わんの温もりを感じたり、口をつけたときの飲み心地を楽しんだりすることができます。
ここでは陶器と磁器の魅力をそれぞれご紹介します。
陶器の特徴

陶器の原料は土(粘土)で、素朴な風合いが特徴です。
陶器の見た目は土の色(茶色)が多く、器に厚みがあって、ザラザラとした食感に温もりを感じます。
陶器の素材は多孔質です。
多孔質というのは、気孔(空気の細かい穴)が多いことを指し、わずかに水分を吸収することが特徴です。
料理の雑味を吸着するといわれており、味をまろやかにしてくれます。
また、断熱性が高く、熱がゆっくり伝わります。
保温性が高く、冷めにくいことが特徴なので、湯のみや土鍋として使われることが多いです。
手に馴染む温かさがあり、煮物の器としてぴったりです。
陶器の代表的な産地の例として、美濃焼、萩焼、益子焼、唐津焼などが挙げられます。
磁器の特徴

磁器の原料は石(石粉)であり、ガラスのような滑らかな質感が特徴です。
磁器の見た目は薄くて硬質、透明感があり、つるつるに成形できます。
白い素地に染付や金彩などの装飾がよく映えるところが魅力です。
素地がガラス化しているので、吸水性はありませんが、香りがストレートに伝わります。
熱伝導率が高いため、熱しやすく冷めやすいことも特徴です。
丈夫で割れにくく、汚れがつきにくいため日常使いしやすい器です。
食洗機対応な食器も多いことが特徴ですが、薄手のものは破損に注意が必要でしょう。
磁器の代表的な産地の例として、有田焼、伊万里焼、九谷焼、砥部焼などが挙げられます。
陶器と磁器、大きな5つの違い

陶磁器には、釉薬(うわぐすり)をかけて焼く共通点があります。
見た目も手触りも大きく異なる陶器と磁器には、主に5つの違いがあります。
それぞれ見ていきましょう。
原料
陶器は陶土(粘土)を練って形を作り、磁器は陶石という石の粉を練って成形します。
また、見た目も大きな違いがあります。
陶器はザラザラとした質感があり、素朴な風合いが魅力です。
ですが、磁器はつるつるとした質感で薄く、ガラスのように滑らかです。
吸水性
陶器の素材は多孔質であり、わずかに吸水性があります。
器にしみ込んだ水分がカビの原因となることがあるので、しっかり乾燥させてから収納する必要があります。
一方、磁器の素地はガラス化しているため、吸水性がありません。
水を弾き、汚れがつきにくいため、お手入れしやすいことが特徴です。
水分を拭き取ったら、すぐに片付けても大丈夫です。
透光性
陶器は粘土製なので、光を通しません。
磁器は長石や珪石といったガラス質の石を多く含むので、透明感と透光感があります。
磁器を光にかざすと薄い部分は透け、裏側の文様や色が透けて見える点が魅力です。
熱伝導率
陶器は粘土の中に多くの細かい空気が含まれるため、熱伝導率が低く、断熱性の高さが特徴です。
磁器は薄く成型できるうえ、空気の層がほとんどありません。
熱伝導率が高く、器が熱くなりやすいので、高温の飲み物を持つときは持ち手を使うなどの工夫が必要です。
焼成温度
焼成温度は、器の性質や質感に大きな影響を与えます。
陶器は800〜1200度の低〜高火度焼成です。
比較的低温で焼かれるため、多孔質で柔らかい仕上がりになります。
磁器は1300〜1400度の高温で焼かれるため、陶石が溶けてガラス化が進み、陶器よりも緻密で硬い仕上がりになります。
陶器と磁器の違い「一覧表」

焼きものには、器の温かさや冷たさ、手に取ったときの重さや感触など、五感で味わう楽しみがあります。
自分の好みに合わせて、それぞれの特徴に応じた器を選びましょう。
ここでは、陶器と磁器の違いについて一覧表にまとめました。
陶器 | 磁器 | |
---|---|---|
主な原料 | 陶土(粘土) | 陶石(石粉) |
吸水性 | あり | なし |
透光性 | なし | あり |
熱伝導率 | 低い | 高い |
焼成温度 | 低〜高温度 | 高温度 |
主な産地 | 美濃焼 萩焼 益子焼 唐津焼 瀬戸焼 | 有田焼 伊万里焼 九谷焼 砥部焼 瀬戸焼 |
日本各地の陶磁器を楽しむ

日本には、各地に陶磁器の産地があり、それぞれ特徴的な焼きものが作られています。
ここでは、「日本三大陶器まつり」の開催される産地の代表的な陶磁器として、「美濃焼」「瀬戸焼」「有田焼・伊万里焼」の焼きものをご紹介します。
いずれも、2025年2月時点で経済産業大臣による「伝統的工芸品」に指定されている陶磁器です。
詳しく見ていきましょう。
美濃焼(岐阜県)
美濃焼とは、平安時代より岐阜県東濃地方で作られている焼きものです。
主に陶器が生産され、茶の湯の流行とともに茶陶の世界が生まれました。
安土桃山時代から江戸初期に焼かれた「美濃桃山陶」は、千利休をはじめとする多くの茶人に愛されました。
とくに「黄瀬戸」「瀬戸黒」「志野」「織部」の4つの形式は代表的で、今も受け継がれています。
江戸時代末期には磁器の生産が始まりました。
和食器や洋食器、タイルなどの生産が盛んとなり、今では全国の陶磁器生産量の約60%を占める産地となっています。
岐阜県土岐市では、毎年GWに「土岐美濃焼まつり」が開催されます。
1km以上にわたって250以上のテントが並ぶ東海地方最大の陶器市で、100万人以上が訪れるにぎわいをみせます。
瀬戸焼(愛知県)
愛知県瀬戸市で作られる瀬戸焼は、陶器と磁器の両方を生産する産地の一つです。
瀬戸焼は「日本六古窯」の一つで、縄文時代から続く歴史を持ち、日本ではじめて釉薬(うわぐすり)が使われたことでも知られています。
陶磁器の代名詞として「せともの」という言葉が広まり、さまざまな種類の器が作られています。
陶器には、中世の「古瀬戸」と、江戸時代に確立された「赤津焼」があります。
「赤津焼」は、7種類の釉薬と12種類の装飾技法が用いられることが特徴です。
磁器は「瀬戸染付焼」と呼ばれる技法で施されており、白地に藍色の絵付けの美しさが印象的です。
瀬戸焼のうち、「赤津焼」と「瀬戸染付焼」の2つが「伝統的工芸品」に指定されています。
愛知県瀬戸市では、毎年9月に「せともの祭」が開催されます。瀬戸川沿いに約200軒の店が並び、数十万人の人出でにぎわいます。
有田焼・伊万里焼(佐賀県)
有田焼・伊万里焼は、江戸時代に日本で最初に磁器作りが始まった窯場とされています。
良質な陶石から作り出される白磁に描かれる繊細な絵柄は、格調高い雰囲気を生み出し、ヨーロッパの貴族から「白い金」と称されるほど人気を博しました。
現在、有田焼・伊万里焼と呼ばれる磁器は、江戸時代に伊万里港から出荷されたことから「伊万里焼」とも呼ばれました。
オランダ商館を通じて大量に輸出され、ヨーロッパを代表する磁器「マイセン」にも影響を与えています。
白磁に青い文様を施した「染付」、日本画のような絵付けが特徴の「柿右衛門」、金彩を施した「金襴手」など、さまざまな様式が生み出されました。
佐賀県有田町では、毎年GWに「有田陶器市」が開催されます。全国から120万の人が訪れるほど盛況を博しています。
まとめ
食卓に彩りを与えてくれる陶磁器。
陶器は土、磁器は石を原料としている点が大きな違いです。
陶器は温かみがあり保温性が高いため湯のみや煮物の器に、磁器は薄くて丈夫なので普段使いの食器に適しています。
陶器と磁器、それぞれの違いがわかると、器選びが楽しくなります。
あなたも用途や好みに合わせて、自分にあった陶磁器を選んでみませんか。
参考書籍:森由美監修「日本のやきもの探訪」メイツ出版(2024)