目次
企業が地方公共団体への寄附を通して、地方創生やSDGs推進活動を後押しできる「企業版ふるさと納税」。
法人関係税の優遇措置も受けられ、CSR向上にもつながる仕組みとして、広がりを見せています。
企業版ふるさと納税を実施する上で得られるメリットや注意点、税制優遇の内容、手続きの進め方などをご説明します。
企業版ふるさと納税実施を検討する場合の参考にしてください。
企業版ふるさと納税とは
企業版ふるさと納税は企業が地方公共団体の実施する「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に対する寄附を行い、税制優遇を受けられる制度です。
2016年に内閣府が創設しており、正式名称は「地方創生応援税制」です。
個人が行うふるさと納税との違いを挙げると、寄附によって控除される税金が以下のように異なります。
法人向けと個人向けのふるさと納税で控除される税金
ふるさと納税 | 控除される税金 |
---|---|
法人向け | 法人住民税 法人税 法人事業税 |
個人向け | 所得税 住民税 |
また、個人向けのように寄附に対する返礼品はありません。
企業版ふるさと納税の寄附実績
内閣府が公表している企業版ふるさと納税の寄附実績は、以下のように推移しています。
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
寄附件数(件) | 517 | 1,254 | 1,359 | 1,327 | 2,249 | 4,922 | 8,390 |
寄附額(百万円) | 747 | 2,355 | 3,475 | 3,380 | 11,011 | 22,575 | 34,107 |
寄附企業数(社) | 459 | 1,112 | 1,138 | 1,117 | 1,640 | 3,098 | 4,663 |
出典:内閣府|地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の令和4年度寄附実績について(概要)
企業版ふるさと納税に参加する企業数・寄附件数とも当初から大幅に伸びており、規模が拡大していることがうかがえます。
2022年度の寄附金額は、当初の45倍以上の数値を示しています。
企業版ふるさと納税の仕組み|9割控除について
企業版ふるさと納税では、寄附金額の9割相当の税制優遇を受けることが可能です。
具体的には寄附金額の最大6割が税額控除され、3割を税務上「損金」として扱う損金算入の形で減税されます。
税額控除はもともと寄附金額の最大3割となっていましたが、2020年度の税制改正により最大6割に拡充されました。
法人税等の控除上限額
企業版ふるさと納税で控除される法人関係税の上限の基準は、それぞれ以下の通りです。
それぞれの基準を合わせると、最大6割の税額控除が可能となります。
税金 | 上限基準 |
---|---|
法人住民税 | ・寄附額の4割 (法人住民税法人税割額の20%が上限) |
法人税 | ・法人住民税で4割に達しない場合、その残額を税額控除。 ただし寄附額の1割が限度 (法人税額の5%が上限) |
法人事業税 | ・寄附額の2割 (法人事業税額の20%が上限) |
参考:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生|制度概要
法人税等が控除される要件
企業版ふるさと納税制度を活用して税制優遇措置を受けるには、以下の要件を踏まえる必要があります。
控除の要件
- 1回当たり10万円以上の寄附を行う
- 寄附の代償として経済的な利益を受けない
- 本社の所在する地方公共団体には寄附できない
- 国が認定する地域再生計画に位置付けられる地方公共団体の地方創生プロジェクトを寄附の対象とする
- 地方交付税の不交付団体である都道府県には寄附できない
- 地方交付税の不交付団体で、全域が地方拠点強化税制における地方活力向上地域以外の地域にある市区町村には寄附できない
参考:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生|企業版ふるさと納税リーフレット
企業版ふるさと納税(人材派遣型)について
2020年に地方創生の推進を図るため、「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」が創設されました。
以下の通り基本スキームが示されています。
出典:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生|企業版ふるさと納税(人材派遣型)概要
企業版ふるさと納税の寄附を受けた自治体のプロジェクトに関して、寄附企業が諸々の専門知識やノウハウを持つ人材を派遣する仕組みとなっています。
企業にとっては自社のノウハウなどを生かして地方創生の推進に貢献する実績を挙げたり、人材育成の好機になったりといったメリットがあるでしょう。
また派遣した人材の人件費相当額を含む寄附金に関しては、先に触れた税の優遇措置が受けられます。
さらに自治体とのパートナーシップや人材交流が活発化するきっかけも見込まれます。
ただし企業版ふるさと納税の見返りとして補助金を受け取るなど経済的な利益を受けることは、禁止です。
企業版ふるさと納税の特例措置はいつまで続くか
企業版ふるさと納税の税額控除の特例措置は、2024(令和6)年度までです。
2020年度の税制改正により前述した税額控除割合の引き上げなど大幅な見直しが実施されており、適用期限は5年間となっています。
企業版ふるさと納税のメリット
企業が企業版ふるさと納税に参加することで、以下のようにブランドイメージなどに関するメリットが生まれます。
- SDGsやESGの取り組みの一環になる
- 取引先や金融機関からの信頼につながる
- 地方公共団体と良好な関係を構築できる
SDGsやESGの取り組みの一環になる
企業版ふるさと納税の対象となるプロジェクトは環境保全や脱炭素化を目的とした内容が多く、企業は寄附を通してSDGs支援やESGへの取り組みを進められます。
「SDGsやESGへの意識が高い」「積極的にSDGs推進を後押ししている」という姿勢が消費者に伝わることは、イメージアップにつながります。
取引先や金融機関からの信頼につながる
企業版ふるさと納税の実績が業界内外で知られるようになると、消費者以外のステークホルダーからも高い信頼を得やすくなります。
やはり寄附を通して地方創生やSDGs活動を後押しする姿勢は「CSRの高い、クリーンな企業」というイメージにつながりやすいためです。
業務の取引を進めたり、金融機関の融資を申し込んだりといった場面で有利にはたらく可能性が期待できます。
地方公共団体と良好な関係を構築できる
寄附先の地方公共団体との情報交換や人的交流などの機会が増えることで、新たなビジネスチャンスなどにつながる可能性もあります。
たとえば寄附をきっかけに自治体関係者と共同で地域の課題解決を模索したり、従業員が寄附先にワーケーションで訪れたりと、交流が深まるかもしれません。
そうしたやり取りを重ねる中で、新たなサービスの開発や働き方の仕組みづくりのきっかけにつながる可能性が期待できます。
企業版ふるさと納税のデメリット
前述した通り企業版ふるさと納税の寄附金は、法人関係税の軽減という形で実質負担額を抑えることが可能であるものの、寄附する際にはキャッシュアウトが発生します。
高額な寄附をしてしまうと年度の経営に影響を与える可能性もあるため、寄附額を慎重に検討する必要があります。
資本金や経営状態も踏まえ、税制優遇のメリットを生かして、寄附できる金額を事前に税理士などに相談した上で調整することをおすすめします。
企業版ふるさと納税の流れ・やり方
企業版ふるさと納税を実施するには、以下の流れで手続きを進める必要があります。
① 寄附先の選定
② 自治体への問い合わせ
③ 必要書類の提出・寄附
④ 法人税や地方税の申告
①寄附先の選定
まず、寄附先の地方公共団体と寄附をする事業を選びます。
企業版ふるさと納税の対象となる事業については企業版ふるさと納税ポータルサイトに掲載されており、分野別・地域別などで調べることが可能です。
寄附対象の事業は企業誘致や人材育成、スポーツ振興、ものづくり、環境保全など多岐に渡ります。
CSR活動の中で力を入れていたり、企業イメージになじみやすかったりといったジャンルから選ぶことも可能なので、じっくりと検討しましょう。
ただし企業が本社を置く地域には企業版ふるさと納税による寄附はできないため、注意しましょう。
②自治体への問い合わせ
寄附を検討する地方公共団体に、寄附に関して問い合わせします。
窓口となる担当部署は自治体によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
担当者に企業版ふるさと納税を検討している旨を伝えるほか、具体的な事業内容や展望について疑問点があれば、聞き取っておくのも良いでしょう。
③必要書類の提出・寄附
寄附申込書など必要書類を提出し、寄附を行います。
納付書や口座振り込みといった寄附方法があるので、確認しましょう。
④法人税や地方税の申告
企業版ふるさと納税に適用する寄附を行ったことを税務署などに申告し、税の控除を受ける手続きを行います。
寄附先から送られる寄附金の受領証など必要書類を確認しておきましょう。
企業版ふるさと納税に関するよくある質問
企業版ふるさと納税に関するよくある疑問点と答えを紹介します。
返礼品はもらえる?
企業版ふるさと納税の寄附に対する代償として経済的な利益を受け取ることは禁止されているため、寄附先からの返礼品はありません。
どの自治体に寄附できる?
下記の地域をのぞく都道府県・市区町村が寄附対象となります。
除外要件
- 地方交付税を受けていない都道府県
- 地方交付税を受けていない自治体で、その地域が地方拠点強化税制における地方活力向上地域にない市区町村
- 企業が本社を置く自治体
国の補助金と併用できる?
併用できます。企業版ふるさと納税と併用可能な主な補助金として、以下があります。
併用可能な補助金
- 地方創生関係交付金(内閣府)
- 子ども・子育て支援整備交付金(内閣府)
- 過疎地域等自立活性化推進交付金(総務省)
- 博物館クラスター推進事業(文科省)
- 農山漁村振興交付金(農水省)
- 地域公共交通確保維持改善事業費補助金(国交省)
- 自然環境整備交付金(環境省)
- 施設周辺整備助成補助金(防衛省)
まとめ
企業版ふるさと納税は事業所のある地方との信頼関係を深めたりCSR活動を推進したりと、企業にとってイメージアップやビジネスチャンスを図る好機になり得ます。
自己負担を抑えるために寄附金額を調整するなど入念な準備が求められるものの、2024年度まで優位な税制優遇措置を受けながら活用することが可能です。
寄附先や金額について社内で調整したり税理士に相談したりと準備を進めながら、ESG戦略の一策として検討してみてはいかがでしょうか。