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そうめんとひやむぎは、昔は製法の違いにより分類できました。
生地を細く延ばして作る「そうめん」と、そうめんより太めに刃物で切って作る「ひやむぎ」に分かれていたのです。
製法が多様化した現在では、麺の太さに応じて、法律で名称が定められています。
一部の例外を除き、基本的にそうめんの方が細く、麺の太さ(長径)が1.3mm以上あるかどうかが、そうめんとひやむぎを分ける基準です。
そのほか、麺の色や食感なども違う傾向にあります。
この記事では、そうめんとひやむぎの違いについて詳しく解説します。
そうめんとひやむぎの違いは法律で定められた「麺の太さ」

そうめんとひやむぎの違いは、法律で決められています。
食品表示法に基づく「食品表示基準」で、麺の太さと製法(機械製か手延べ製か)に応じた名称の表示ルールが定められているのです。
小麦粉を使った乾めん類は、「干しめん」や「手延べ干しめん」に分類され、それぞれ太さに応じて使用できる名称が決まっています。
以下は、うどん・そうめん・ひやむぎの名称に関する基準の一覧です。麺の太さと製法に応じて、記載されている名称のいずれかを使用できます。
麺の長径 | 機械製麺 | 手延べ製麺 |
---|---|---|
1.7mm以上 | 干しうどん、 うどん | 手延べうどん |
1.3mm以上 1.7mm未満 | 干しひやむぎ、 ひやむぎ、 細うどん | 手延べひやむぎ、 手延べそうめん |
1.3mm未満 | 干しそうめん、 そうめん | 手延べひやむぎ、 手延べそうめん |
※e-Govポータル「食品表示基準」を参考に当サイトが作成
麺は、断面が楕円形や長方形であることもあります。そのため麺の太さは、単なる直径ではなく、「長径」により決まります。
機械製麺の場合は、長径が1.3mm以上1.7mm未満なら「ひやむぎ」を含む名称を、1.3mm未満なら「そうめん」を含む名称を使用可能です。
つまり、「そうめんとひやむぎの違いは麺の太さ(長径)が1.3mm以上あるかどうか」といえます。
ただし、手延べ製麺では、長径が1.7mm未満なら「手延べそうめん」と「手延べひやむぎ」のどちらの名称も選択可能です。そのため、例えば、長径が1.3mm以上の手延べそうめんも存在します。
なお、ここまで紹介した違いは法律で定められた分類基準です。
ほかにも、製法や麺の色・食感など、一般的な傾向や製品ごとの違いもあります(後の章で解説)。
麺の太さと名称も定めている「食品表示基準」とは?
そうめんとひやむぎの違いが定められているのは、食品表示法に基づく「食品表示基準」です。
以下に要点を示します。
- 食品の名称や原材料、添加物などの表示ルールを定めた法令。
- 包装して販売・陳列される加工食品や生鮮食品に、義務として適用される。
- 乾めん類においては、麺の太さや製法ごとに使える名称(そうめん・ひやむぎ・うどんなど)を明確に定めている。
なお、こうした麺の太さと名称は「JAS規格」で定められていると誤解されることも多いです。
JAS規格は、国が定めた任意の品質基準であり、JASの認証を受けて「JASマーク」が表示可能になる格付け品にのみ適用されます。
また、そうめんやひやむぎといった名称や分類は、JAS規格では定められていません。
ちなみに、かつては「食品表示基準」も、JAS規格と一緒に「JAS法」の一部として運用されていました。
こうした経緯から現在でも、食品表示基準はJAS規格と混同されることがあるのです。
2013年の法改正により、食品表示基準制度はJAS法から独立し、「食品表示法」のもとで運用されています。
その他のそうめんとひやむぎの違い

すでに解説した麺の太さ以外にも、そうめんとひやむぎは、一般的な傾向として多くの違いがあります。
以下に、主な違いをまとめます。
そうめん | 違い | ひやむぎ |
---|---|---|
長径1.3mm未満 | 太さ | 長径1.3mm以上1.7mm未満 |
手延べ製法が伝統的 | 製法 | 刃物で切り出す製法が伝統的 |
白い麺だけの製品が一般的 | 麺の色 | 数本の色付き麺が入った製品も |
口当たりが軽くのどごしが良い | 食感 | 歯ごたえや弾力も楽しめる |
奈良時代に中国から伝来した お菓子が起源。健康祈願を込めて 7月7日にお供えする食文化も。 | 歴史と 食文化 | 室町時代に出回り始めた「切麦」 に由来。昔は熱い状態と冷たい状態 で呼び名が異なっていた。 |
麺の太さ以外の違いを順に解説します。
製法
そうめんとひやむぎは、古くは製法の違いにより分類されていました。
伝統的には、そうめんは手で細く延ばす製法で、ひやむぎは生地をうどんのように刃物で切る製法で作られてきたのです。
そのため、手延べで作る伝統的製法に基づけば、以下のような違いがあります。
麺の種類 | そうめん | ひやむぎ |
---|---|---|
伝統的製法 | 糸のように細く延ばす | 麺を刃物で切り出す |
乾麺の断面 | 円形・楕円形 | 四角形 |
麺の太さ | 細い | 中間的な太さ |
ただし、現代では製法が多様化し、そうめんもひやむぎも機械で作られることが多くなりました。機械製麺のそうめんは、ひやむぎのように断面が四角形になります。
「そうめんは手延べが多い」といった傾向は今でも見られるものの、製法や麺の断面による違いは昔よりあいまいになっています。
そのため、現在では製法だけで両者を区別するのは難しく、麺の太さに基づいた名称が法律で定められています。
麺の色
ひやむぎには、ピンクや緑の麺が数本入っていることがあります。
これは昔、手作りのそうめん・ひやむぎ・うどんを、木箱にそのまま入れて店頭販売していた頃のなごりです。
麺の種類をひと目で区別できるよう、中間の太さであるひやむぎに、色付きの麺を数本加えたのが始まりといわれています。
パッケージに名称が表示されている現代でも、彩りを楽しむために、ひやむぎに色を付ける風習を残した製品もあります。
ただし、最近ではひやむぎだけでなく、色付きのそうめんが販売されていることもあります。
食感や風味
そうめんとひやむぎは、一般に麺の太さが異なるため、食感や風味にも違いが生まれます。
- そうめん(細い)
口当たりが軽く、のどごしのよさを楽しめる。 - ひやむぎ(やや太め)
ほどよい歯ごたえや弾力を感じやすい。
噛む回数が多くなり、小麦の風味も強く感じやすい。
また、そうめんにはひねもの(古物)と呼ばれる、製造後に熟成させたものもあります。
1年以上寝かせたひねものは、コシが強く、旨味も増すとされるため、食べ比べてみるのもおすすめです。
歴史と食文化
そうめんのルーツは、奈良時代に中国から伝わった「索餅」というお菓子にあるとされています。
索餅は、小麦粉をこねて縄状にねじったもので、当時は、寺院や宮廷など、限られた場でのみ食べられる高級品でした。
室町時代には現在に近いそうめんの形になり、庶民の間にも普及したのは江戸時代に入った頃です。
また、そうめんの起源である索餅は、旧暦の7月7日に行われていた健康を願う儀式の際に、お供えものとして献上されていました。
現代でも無病息災の願いを込めて、七夕の日にそうめんを食べる習慣が広く親しまれています。
同じく室町時代の文献には、ひやむぎのルーツといわれる「切麦」という麺の名前が登場します。
熱いまま食べるものは「熱麦」、冷やして食べるものは「冷麦」と呼ばれ、時代の流れとともに「ひやむぎ」という呼び名が定着したと考えられています。
そうめんとひやむぎの共通点

そうめんとひやむぎは、原材料や食べ方などが共通しています。
この章では、そうめんとひやむぎの共通点や類似点を紹介します。
原材料
そうめんとひやむぎの主な原材料は小麦・水・塩です。
伝統的な製法などには違いがあるものの、そうめんもひやむぎも同じ原材料で作られています。
また、手延べ製法では、麺同士がくっつかないよう生地の表面に薄く油をコーティングすることがある点も共通しています。
栄養価やカロリー
そうめんとひやむぎは、栄養価やカロリーも同等です。
文部科学省の「日本食品標準成分表」でも、「そうめん・ひやむぎ」や「手延べそうめん・手延べひやむぎ」のように、同じ栄養価の食品として扱われています。
以下に、一人前の目安となる、乾麺100gあたりの栄養価をまとめます。
栄養成分 | そうめん ひやむぎ | 手延べそうめん 手延べひやむぎ |
---|---|---|
エネルギー(kcal) | 333 | 312 |
たんぱく質(g) | 9.5 | 9.3 |
脂質(g) | 1.1 | 1.5 |
炭水化物(g) | 72.7 | 68.9 |
食塩相当量(g) | 3.8 | 5.8 |
※文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より引用
基本的な茹で方や食べ方
そうめんとひやむぎは、どちらも冷やして、麺つゆを付けて食べるのが一般的です。
麺の風味にクセがない点も似ていて、ごまだれやポン酢などで食べるアレンジも楽しめます。
また、茹で時間には多少の差があるものの、たっぷりのお湯で茹でる調理方法も共通しています。
一般的な茹で時間の目安は、そうめんで2分前後、ひやむぎで4分前後です。
ただし、ひやむぎはそうめんより麺が太いため、2~3分間茹でた後、仕上げに1~2分間蒸らす方が、モチモチとした弾力を保ちつつ、中までしっかりと火を通せます。
にゅうめんはそうめん・ひやむぎと違う麺類?

「にゅうめん」とは、そうめんやひやむぎのように麺の種類を指す言葉ではなく、そうめんを温かくして食べる奈良県発祥の郷土料理のことです。
にゅうめんは、かまぼこ・青ねぎ・鶏肉などの具材が入った温かい出汁の中でそうめんを煮込んだり、温めたつゆをそうめんの上にかけたりして食べるのが大きな特徴です。
にゅうめんには、しっかりした食感で茹でても伸びにくい「ひねもの」のそうめんが、とくに相性が良いとされています。
まとめ
そうめんとひやむぎの最大の違いは、法律(食品表示法の食品表示基準)で定められた麺の太さです。
基本的に、長径が1.3mm未満ならそうめん、1.3mm以上1.7mm未満ならひやむぎに分類されます。
ただし、手延べ製麺では、長径が1.7mm未満なら「手延べそうめん」と「手延べひやむぎ」のいずれかを表示可能です。
そうめんとひやむぎは、古くは製法が明確に違いましたが、現代では機械製麺が主流となり、製法や麺の断面による違いはあいまいになっています。
また、麺の色や食感、歴史的背景などにも違いがあるほか、そうめんは「にゅうめん」としても食べられています。
ぜひ、食卓でも、そうめんとひやむぎの違いを楽しんでみてください。